
ADRのメリット・デメリットを中立的に整理
ADRの主なメリット
- 米国の取引時間に売買できる
日本市場が閉まっている時間帯でも、日本企業のADRを売買できる場合があります。 - 米ドルで取引できる
米ドル資産を保有している場合、円への交換を挟まずに購入できることがあります。 - 米国の証券口座から外国企業へ投資しやすい
現地市場の口座を用意せず、米国株と同様の画面で取引できることがあります。 - 株価や配当が原株に連動する
換算比率に応じて、原株の値動きや配当を経済的に受けられます。 - 日本株の夜間動向を確認できる
日本市場終了後に発生したニュースへの反応を確認する材料になります。
ADRの主なデメリット
- 為替変動の影響を受ける
原株価格が上昇しても、為替変動によって円換算した利益が小さくなることがあります。 - ADR管理手数料が発生する場合がある
預託銀行が、保管や事務手続きの費用として手数料を徴収することがあります。 - OTC銘柄は流動性が低い場合がある
取引量が少ないと、希望価格で売買できない、スプレッドが広いといった問題が起こります。 - 原株との価格差が生じる
時差、為替、需給、取引コストによって、円換算値が原株価格と一致しない場合があります。 - プログラムが終了する可能性がある
ADRプログラムの終了、取引市場の変更、証券コードの変更などが行われることがあります。 - 議決権行使に制約がある場合がある
預託銀行を経由するため、原株を直接保有する場合と同じ方法や日程で行使できるとは限りません。
ADRの配当金はどのように支払われる?
ADRの裏付けとなる企業が配当を実施すると、預託銀行は原株について支払われた配当金を受け取ります。その後、必要に応じて通貨を米ドルへ交換し、税金や手数料を差し引いてADR保有者へ分配します。
そのため、企業が発表した原株の配当額を単純に換算した金額と、証券口座へ実際に入金される金額が異なる場合があります。
主な差し引き項目は次のとおりです。
- 発行企業の所在国で課される源泉税
- 預託銀行が徴収するADR手数料
- 外国為替の交換に伴うコスト
- 日本国内で課される所得税等
- 証券会社が定める事務手数料
ADRの配当金と税金|日本の居住者が注意したいこと
日本の居住者がADRから配当を受け取る場合、日本国内の課税に加えて、発行企業の所在国で税金が差し引かれることがあります。
課税口座で保有する場合
NYSEなどに上場する外国株式やADRの配当・譲渡益は、日本の税制上、上場株式等として扱われる場合、所得税等15.315%と住民税5%を合わせた20.315%の課税が基本となります。
ただし、OTC市場で取引されるADR、海外の証券会社で保有するADR、一般口座で保有するADRなどは、国内取引所の上場株式と同じ処理にならない場合があります。特定口座で取り扱えるか、国内で源泉徴収されるかについても証券会社ごとに違いがあります。
外国税額控除
配当金について外国で所得税に相当する税金が課され、日本でも課税される場合、一定の要件と限度額の範囲内で外国税額控除を利用できる可能性があります。
外国税額控除を受けるには、原則として確定申告と、外国税の額を確認できる書類などが必要です。差し引かれた外国税の全額が必ず戻る制度ではなく、日本の所得税額や国外所得の割合によって控除限度額が決まります。
NISA口座で保有する場合
NISA口座の対象として証券会社が取り扱うADRであれば、日本国内の譲渡益や配当への税金は非課税となります。ただし、発行企業の所在国で差し引かれる外国税やADR管理手数料まで非課税になるわけではありません。
NISAでは日本国内の所得税が発生しないため、外国で差し引かれた税金について、通常は外国税額控除を利用できません。また、すべてのADRがNISAや特定口座の対象になるわけではありません。特にOTC銘柄は、証券会社が取り扱っていないことがあります。
日本企業のADRは税務処理が単純とは限らない
日本企業のADRであっても、米国の預託銀行や海外の保管機関を経由して配当が支払われます。日本の原株を国内口座で保有する場合と、配当金の入金経路や手数料、源泉徴収の表示が異なる可能性があります。
税務上の扱いは、発行企業の国、上場市場、口座区分、居住地、証券会社、配当の受取経路などで変わります。個別の申告については、年間取引報告書や配当金計算書を確認し、必要に応じて税務署または税理士へ相談してください。
ADR手数料はいくらかかる?
ADRでは、預託銀行が管理費用として「Depositary Service Fee」などの名称で手数料を徴収することがあります。一般にADR1口当たりの金額で設定されますが、金額や徴収方法は銘柄ごとに異なります。
主な徴収方法は次のとおりです。
- 配当金から差し引く
- 証券口座の現金残高から引き落とす
- ADRの発行や原株への転換時に徴収する
無配当の銘柄でも、ADR管理手数料が口座から引き落とされる場合があります。配当利回りだけでなく、預託銀行の手数料情報も確認する必要があります。
ADRを購入する前に確認したいチェックリスト
- 企業名とADRコードが一致しているか
- NYSE・Nasdaq上場か、OTC取引か
- スポンサー付きか、アンスポンサードか
- ADR1口が原株何株分に相当するか
- 直近の出来高と売買スプレッドは十分か
- 利用する証券会社で売買できるか
- 特定口座またはNISAで取り扱えるか
- ADR管理手数料はいくらか
- 配当金に外国税が課されるか
- ADRプログラムの終了予定や取引停止情報がないか
ADRに関するよくある疑問
ADRは米国株ですか?
米国市場で取引されますが、裏付けとなるのは米国外の企業の株式です。米国企業が発行した普通株式とは仕組みが異なります。
ADRを買えば日本株を直接保有したことになりますか?
通常は原株そのものではなく、預託銀行が保管する原株に対応した権利を保有します。価格や配当は原株に連動しますが、権利行使や手数料などに違いがあります。
ADRと原株はいつも同じ値動きになりますか?
長期的には換算比率と為替を通じて近い価値になりやすいものの、取引時間、流動性、為替、需給の違いによって価格差が生じます。
ADRが高ければ翌日の日本株も必ず上がりますか?
必ず上がるわけではありません。ADRは参考材料の一つですが、ADR終了後のニュース、為替、日本株先物、売買注文などによって翌日の値動きは変わります。
すべてのADRを日本の証券会社で購入できますか?
購入できません。NYSE上場ADRを扱う証券会社は比較的多い一方、OTC銘柄は取扱対象外となることがあります。売却のみ可能、電話注文のみ対応といった場合もあります。
まとめ|ADRは換算比率・為替・取引市場をセットで確認しよう
ADRは、米国外の企業の株式を裏付けとして、米国市場で取引できるようにした預託証券です。日本企業では、トヨタのTMや三菱UFJのMUFGのようなNYSE上場ADRに加え、キオクシアのKXIAY、任天堂のNTDOY、フジクラのFJIKYなど、OTC市場で取引されるADRもあります。
ADR価格を日本株と比較するときは、ドル価格を円換算するだけでは不十分です。ADR1口が原株何株分なのかを確認し、換算比率を反映させる必要があります。
また、ADRには米ドルで売買できる利便性がある一方、為替リスク、流動性、ADR管理手数料、外国税、プログラム終了などの注意点があります。銘柄コード、換算比率、取引市場、預託銀行、税務上の扱いを確認したうえで判断することが大切です。
本記事はADRの一般的な仕組みを説明するものであり、特定銘柄の購入・売却を推奨するものではありません。株価、換算比率、税制、ADRプログラム、証券会社の取扱状況は変更される可能性があります。実際の取引前には、企業のIR情報、預託銀行、証券会社などの最新情報をご確認ください。
<参考サイト>
米国証券取引委員会(SEC)/Investor.gov/Citi Depositary Receipt Services/Deutsche Bank Depositary Receipts/NYSE/OTC Markets Group/国税庁/金融庁/トヨタ自動車/三菱UFJフィナンシャル・グループ/キオクシアホールディングス/ソフトバンクグループ/ソフトバンク/任天堂/フジクラ/アドバンテスト/村田製作所



