債権とは?債務との違い・回収・時効・譲渡・差押え・債権放棄までわかりやすく解説

債権を守る「債権保全」とは?代表的な手段を整理

債権保全とは、将来債権を回収できる可能性を確保するための措置を広く指す言葉です。一つの法律上の手続名ではありません。

例えば、相手が不動産を処分してしまいそうな場合、裁判で判決を得るまで待っていると強制執行できる財産がなくなる可能性があります。

こうした場合の法的な保全手段として代表的なのが仮差押えです。

仮差押え

裁判所による民事保全手続の一つで、金銭債権について、将来の強制執行ができなくなる、または著しく困難になるおそれがある場合に、債務者の財産を仮に差し押さえる手続です。

例えば預金、不動産、売掛金などが対象になる場合があります。

仮差押命令を得る際には、裁判所から担保を立てるよう求められるのが一般的です。必要な担保額は一律ではなく、事案や対象財産などによって裁判所が決定します。

契約段階で担保・保証を設定する

債権発生前から、抵当権、質権、保証などを設定して回収可能性を高める方法もあります。

特に高額な取引では、相手の支払能力だけでなく、担保や保証の内容、契約書、支払条件などを事前に確認することも債権管理の一部です。

債権差押命令とは?預金や給与などを差し押さえる

「債権差押命令」とは、債務者が第三者に対して持っている債権を裁判所が差し押さえる手続です。

例えば、債務者本人から直接現金を取り上げるだけが差押えではありません。

差押対象債務者が持つ債権第三債務者
銀行預金銀行へ預金の払戻しを請求する権利銀行
給与勤務先へ給与を請求する権利勤務先
売掛金取引先へ売掛金を請求する権利取引先

裁判所が債権差押命令を発令し、その命令が銀行などの第三債務者へ送達されると差押えの効力が生じます。

いきなり銀行口座を差し押さえることはできる?

一般の債権回収では、原則として確定判決、和解調書、仮執行宣言付支払督促、一定の執行証書など、強制執行の根拠となる債務名義が必要です。

「請求書を送ったが払ってくれない」というだけで、債権者が勝手に銀行口座からお金を引き出すことはできません。

債権差押えの費用はいくら?

裁判所の2026年時点の案内では、通常の債権差押命令申立てに必要な申立手数料は原則4,000円です。

これに郵便料などが加わります。郵便料は裁判所ごとに異なり、債務名義、債権者、債務者、第三債務者などが複数の場合には費用が増えることがあります。

また、判決を得るために訴訟を行う場合には、債権差押えとは別に訴訟の申立手数料なども必要です。

給与は全額差し押さえられる?

一般の金銭債権による給与の差押えでは、生活保障の観点から差押禁止部分があります。裁判所の案内では、原則として給与の4分の1が差押可能部分となり、月給が44万円を超える場合は33万円を除いた部分が差押対象となります。

養育費など一定の債権については別の特則があります。

相手の財産が分からない場合はどうする?

判決を取っても「どの銀行に預金があるか分からない」「勤務先が分からない」ということがあります。

現在の民事執行制度には、一定の要件のもとで利用できる財産開示手続や第三者からの情報取得手続があります。

第三者からの情報取得手続では、債務者の銀行預金、給与、不動産などについて一定の情報提供を求められる場合があります。

ただし、情報を取得しただけで自動的にお金が入ってくるわけではありません。原則として、判明した財産へ別途差押えなどの強制執行を申し立てます。

債権譲渡とは?「お金を請求する権利」を別の人へ移す

債権譲渡とは、債権者が持つ債権を別の人や会社へ移転することです。

例えば、

  • A社:B社への100万円の売掛債権を持つ
  • A社:その債権をC社へ譲渡する
  • C社:新たな債権者となる

という仕組みです。

ファクタリングなどにも、売掛債権を譲渡する仕組みが利用されています。

債権譲渡の主なメリット

  • 売掛債権などを利用した資金調達が可能になる場合がある
  • 債権管理を他社へ移せる場合がある
  • 多数の債権を流動化する仕組みに利用できる

債権譲渡のデメリット・注意点

  • 譲渡価格が債権額を下回る場合がある
  • 債務者や第三者への対抗要件を適切に備える必要がある
  • 譲渡制限に関する契約条項を確認する必要がある
  • 債務者が元の債権者に対して持っていた一定の抗弁を譲受人へ主張できる場合がある
  • 二重譲渡などをめぐって優先関係が問題になる場合がある

「譲渡禁止」と書かれている債権は譲渡できない?

2020年4月施行の改正民法では、債権に譲渡を禁止・制限する特約が付いていても、原則として債権譲渡の効力自体は妨げられないというルールになりました。

ただし、譲受人が譲渡制限特約の存在を知っていた場合や重大な過失によって知らなかった場合には、債務者を保護するためのルールがあります。また、預貯金債権には別の規定があります。

「譲渡禁止特約があっても何の問題もなく自由に譲渡できる」と単純化しないことが重要です。

債権譲渡通知書とは?誰から通知する?

民法第467条では、通常の債権譲渡について、譲渡人から債務者へ通知するか、債務者が承諾しなければ、その譲渡を債務者その他の第三者に対抗できないと定めています。

また、債務者以外の第三者に対抗するためには、原則として確定日付のある証書による通知または承諾が必要です。

そのため、実務では内容証明郵便などを利用して通知する方法があります。

債権譲渡通知書の基本例

債権譲渡通知書

令和○年○月○日

株式会社○○ 御中

通知人(譲渡人):株式会社A

当社は、貴社に対して有する下記債権を、令和○年○月○日付で株式会社Bへ譲渡しましたので通知します。

記

債権の種類:売買代金債権
契約日:令和○年○月○日
債権額:金○○円
支払期日:令和○年○月○日
譲受人:株式会社B

以上

これは構成を示す一般的な例です。実際には、契約内容、債権の特定方法、対抗要件、債務者数などによって必要な記載や手続が異なります。

債権譲渡登記とは?法人による金銭債権の譲渡で利用できる

法人が金銭債権を譲渡する場合には、民法上の通知・承諾とは別に、法務省の債権譲渡登記制度を利用して第三者対抗要件を備える方法があります。

2026年時点の主なポイントは次のとおりです。

  • 譲渡人になれるのは法人に限定される
  • 対象は金銭の支払いを目的とする債権
  • 将来債権も対象にできる場合がある
  • 登記をすることで債務者以外の第三者に対する対抗要件を備えられる
  • 債権譲渡登記をしただけでは債務者への対抗要件が完成するわけではない

債務者に対して譲渡を主張するには、登記事項証明書を交付して通知する方法など、別途の対応が必要です。

債権譲渡登記の費用

法務省によると、2026年9月時点の債権譲渡登記の登録免許税は、債権の個数が5,000個以下なら1件7,500円、5,000個を超える場合は1件15,000円です。

延長登記は1件3,000円、抹消登記は1件1,000円とされています。

登記すれば「本当に存在する債権」と国が保証してくれる?

いいえ。法務省は、債権譲渡登記によって債権の存在や譲渡の有効性そのものが公的に証明されるわけではないと説明しています。

登記は主として対抗要件を備えるための制度です。

回収できない債権を帳簿から消せば、必ず税務上も損金になるわけではありません。最後のページでは債権放棄通知書の例と、貸倒損失・特別損失の重要な違いまで整理します。