
実物資産はインフレ対策になる?「必ず値上がりする」わけではない
インフレとは、物やサービスの価格が継続的に上昇し、同じ金額で購入できる物の量が減っていく状態です。金融庁も、物価が上昇すると現金・預貯金の実質的な価値が目減りする可能性があると説明しています。
そこで金や不動産などの実物資産がインフレ対策として挙げられることがあります。
ただし、「インフレ率が3%なら金価格も必ず3%以上上がる」といった関係ではありません。
World Gold Councilの分析でも、金は長期的なインフレヘッジとしての性質が論じられる一方、短期間の消費者物価指数と金価格の関係は単純ではないことが示されています。
インフレでも価格が下がることがある理由
実物資産の価格は物価だけでは決まりません。
- 国内外の金利
- 為替相場
- 景気
- 需給
- 投資家心理
- 地域や物件ごとの需要
- 税制や規制
例えばインフレを抑えるために金利が上昇すると、利息を生まない金の投資魅力に影響することがあります。不動産でも、借入金利の上昇によって購入可能額や投資採算が変化する可能性があります。
したがって、実物資産はインフレへの備えとして検討できる資産の一つではあっても、インフレに対して必ず利益が出る保証商品ではありません。
実物資産のメリット|金融資産とは違う値動きが期待できる
メリット1|資産分散につながる場合がある
資産形成では、一つの資産だけに集中するより、性質や値動きの異なる複数の資産に分散する考え方があります。
金や不動産などを組み合わせれば、株式などの金融資産だけを保有する場合とは異なる資産構成にできます。
ただし「種類を増やせば必ずリスクが小さくなる」のではありません。同じ要因で同時に価格が下落する場合もあり、保有比率も重要です。
メリット2|不動産なら賃貸収入を得られる可能性がある
金や時計は保有しているだけでは通常収入を生みませんが、賃貸不動産では入居者がいれば家賃収入を得られます。
国税庁では、土地や建物などの貸付けによる所得を原則として不動産所得とし、基本的に「総収入金額-必要経費」で計算するとしています。
メリット3|現物を所有できる
金地金、時計、美術品などは現物として保有できます。不動産であれば居住、店舗、事務所など実際の用途を持つ場合もあります。
これは金融商品にはない特徴ですが、同時に保管・管理・修繕が必要になるというデメリットにもつながります。
実物資産のデメリットとリスク
デメリット1|すぐに希望価格で売れるとは限らない
上場株式は市場の取引時間中であれば比較的売却しやすい一方、不動産は買い手探し、価格交渉、契約、登記などが必要です。
美術品や時計も、買い手の需要や査定価格によって売却条件が変わります。「市場価格1,000万円」と評価されても、必要な日に1,000万円で現金化できるとは限りません。
デメリット2|売買コストがかかる
実物資産では購入価格と売却価格に差があるケースがあります。不動産では仲介手数料、登記関係費用、各種税金なども考慮する必要があります。
そのため、資産価格が少し上昇しただけでは、売買コストを含めると利益が残らないこともあります。
デメリット3|保管・管理費がかかる
金地金を貸金庫などで保管すれば利用料がかかる場合があります。不動産なら管理費、修繕費、保険料、固定資産税などが発生します。
デメリット4|価格を把握しにくい資産がある
上場株式には市場価格がありますが、美術品、アンティーク、時計などは同じ品目でも保存状態、付属品、希少性、真贋などによって価格が変わります。
初心者が実物資産として不動産へ投資する前に確認したいこと
不動産は実物資産の代表ですが、「家賃収入が入るから安定している」とだけ考えるのは危険です。
空室リスク
入居者がいなければ家賃収入は発生しません。それでもローン返済、管理費、固定資産税などの支出が続く場合があります。
修繕リスク
建物や設備は時間の経過によって劣化します。給湯器、エアコン、水回りなどの修理・交換のほか、建物全体で大規模修繕が必要になるケースもあります。
金利上昇リスク
変動金利で融資を受けている場合、金利が上昇すると利息負担が増える可能性があります。
災害リスク
地震、水害、火災などによって建物が損害を受ける可能性もあります。立地ごとのハザード情報や保険内容の確認が重要です。
価格下落リスク
不動産価格は全国一律に動きません。人口、交通利便性、周辺開発、建物の築年数、管理状況などによって個々の物件価格は変わります。
初心者ほど「想定家賃」だけでなく、空室期間、管理費、修繕、税金、ローン金利を含めた収支を見ることが重要です。
実物資産は節税になる?まず税金の仕組みを理解しよう
「実物資産を買えば節税できる」という一般的な制度はありません。
金地金を購入しただけで、購入代金を給与所得から控除できるわけではありません。高級時計や美術品を個人の資産として買っただけでも、原則として購入代金そのものが所得税の控除になるわけではありません。
不動産では減価償却など税務上の仕組みがありますが、税金だけを目的に赤字の物件を買えば経済的に有利になるという意味ではありません。
不動産の建物は減価償却できる場合がある
国税庁によると、業務用として使われる建物などは減価償却資産で、取得費を定められた方法で複数年にわたり必要経費として配分します。
一方、土地は減価償却資産ではありません。
賃貸不動産では、固定資産税、損害保険料、減価償却費、一定の修繕費などが不動産所得の必要経費になる場合があります。
不動産の赤字なら何でも給与と相殺できるわけではない
不動産所得の赤字は一定のルールのもとで他の所得と損益通算できる場合がありますが、例外があります。
例えば国税庁は、不動産所得の赤字のうち、土地等を取得するための借入金利子に相当する一定部分については損益通算できないと案内しています。
さらに国外中古建物などにも特別な制限があります。「不動産を購入すれば必ず給与所得の税金を減らせる」という説明は正確ではありません。
金の売却益には税金がかかる?
個人が保有していた金地金を売って利益が出た場合、国税庁によると原則として譲渡所得となり、給与所得などと合わせる総合課税の対象になります。
基本的な譲渡益は次のように考えます。
売却価額-(取得費+売却に要した費用)=譲渡益
所有期間5年以内
金地金の所有期間が5年以内の場合は、総合課税の短期譲渡所得になります。金地金など総合課税の譲渡所得には年間最高50万円の特別控除がありますが、この50万円は対象となる総合課税の譲渡益全体で考える控除です。
所有期間5年超
所有期間が5年を超える金地金では、特別控除後の長期譲渡所得の2分の1が課税対象となります。
例えば、所有期間が5年を超えているから売却益が全額非課税になるわけではありません。
繰り返し売買している場合は扱いが変わることがある
国税庁は、金地金を営利目的で継続的に売買している場合、その実態に応じて事業所得または雑所得になるとしています。
そのため、すべての金取引を一律に「譲渡所得・50万円控除」と判断することはできません。
200万円超で売れば自動的に200万円へ課税されるわけではない
金地金や白金地金の売買を業として行う事業者が、同一人へ支払う金地金等の譲渡対価が200万円を超える場合には、一定の支払調書を税務署へ提出する制度があります。
これは「200万円を超えて売ると売却代金全額が課税所得になる」という意味ではありません。所得税は取得費や譲渡費用、所得区分などに基づいて別途計算します。
「実物資産は資産の何%が平均なのか」という疑問には、単純な答えがありません。富裕層の統計を見る際にも大きな落とし穴があります。資産配分と保管の考え方を次のページで整理します。





