
実物資産と金融資産の割合は何%がおすすめ?
すべての人に共通する「実物資産○%・金融資産○%が正解」という公的な基準はありません。
適切な配分は、年齢だけでなく、収入、支出、家族構成、住宅の保有状況、借入金、投資期間、どこまで価格下落を受け入れられるかなどで変わります。
例えば持ち家を所有している人は、すでに家計全体で見ると不動産への配分が大きい場合があります。その状態でさらに投資用不動産へ資金を集中すると、本人は「株と不動産へ分散した」と思っていても、総資産では不動産比率が非常に高くなる可能性があります。
「実物資産の平均」は統計によって意味が変わる
日本銀行の資金循環統計では、2026年3月末時点の家計部門の金融資産残高は約2,386兆円です。
ただし、この数字はあくまで金融資産の統計であり、全国の住宅・土地・金・時計などを同じ基準で足して「平均的な実物資産比率」を出したものではありません。
さらに日本銀行自身も、家計金融資産には企業年金の受給権や個人事業主の事業性決済資金など、一般家庭が日常的に「自分の金融資産」と認識しにくい項目も含まれると説明しています。
したがって、「日本人の平均が○%だから自分も○%」という資産配分の決め方には注意が必要です。
富裕層は実物資産をどれくらい持っている?
「富裕層=金や不動産を大量に持っている」と考えられることがありますが、富裕層の定義そのものにも注意が必要です。
野村総合研究所(NRI)が公表した2025年の推計では、2023年時点で純金融資産1億円以上5億円未満を「富裕層」、5億円以上を「超富裕層」と分類しています。
この基準の中心はあくまで「純金融資産」であり、自宅などの実物不動産をそのまま足して判定する仕組みではありません。NRIの推計では、富裕層・超富裕層を合わせて約165.3万世帯、純金融資産総額は約469兆円とされています。
日本の純資産上位層は不動産割合が大きいという資料もある
財務省の研究会資料では、総務省「2019年全国家計構造調査」などをもとにした分析として、日本の保有純資産上位1%の対象世帯について、平均資産構成のうち住宅・宅地が77%、金融資産が23%というデータが紹介されています。
ただし、ここには現在住んでいる住宅・宅地が含まれています。さらに基礎となるのは2019年の調査です。
この77%は「富裕層は投資用不動産を77%持つべき」という推奨割合ではありません。単なる資産構成の観測データとして区別して見る必要があります。
資産配分を考えるなら「総資産」で見る
実物資産を追加する前に、次のように自分の保有資産を全体で整理すると偏りを把握しやすくなります。
- 現金・普通預金・定期預金
- 株式・投資信託・債券
- 自宅不動産
- 投資用不動産
- 金・プラチナなど
- その他の換金可能な資産
- 住宅ローン・投資ローンなどの負債
1億円のマンションを所有していても、8,000万円のローン残高があるなら、「1億円の資産を持っている」という情報だけでは家計全体の状態はわかりません。資産と負債をセットで把握することが重要です。
実物資産として高級時計を買うのはどう?
高級時計の一部には中古市場があり、購入価格を上回る価格で取引されるモデルが存在することもあります。
しかし、高級時計全体が値上がりするわけではありません。
価格はブランドだけでなく、具体的なモデル、製造年、希少性、文字盤、状態、修理歴、付属品、真贋、市場の人気などによって変わります。
時計を「投資」として考える場合のリスク
- 購入価格と業者の買取価格には差がある
- 傷・故障・部品交換などが査定へ影響する場合がある
- 人気モデルが将来も人気とは限らない
- 盗難・紛失リスクがある
- 偽造品や改造品を購入するリスクがある
- 売りたいときに希望価格で売れるとは限らない
時計には「着用して楽しむ」という価値があります。その一方で、資産運用の観点では金地金や上場金融商品とは価格形成や流動性が異なるため、同列に考えないことが重要です。
時計の売却益に税金はかかる?
所得税では、家具、衣服、通勤用自動車など「生活に通常必要な動産」の譲渡による所得は原則として非課税です。
ただし国税庁は、貴金属・宝石・書画・骨董などで1個または1組の価額が30万円を超えるものについては、この非課税扱いから除外するとしています。
高級時計については、素材、性質、使用目的、取引実態などによって税務判断が必要になる場合があります。「30万円を超える時計なら必ず課税」「時計ならすべて非課税」と単純に決めず、高額な売却益が生じた場合は税務署や税理士への確認が安全です。
実物資産の保管方法|盗難・紛失リスクを軽視しない
現物を所有できることは実物資産の特徴ですが、同時に「自分で物を守る必要がある」という問題があります。
自宅で保管する場合
金地金、コイン、時計などを自宅で保管すると、いつでも確認できる一方で、盗難、火災、紛失などのリスクがあります。
耐火金庫などを利用する場合も、金庫そのものの防犯性能や設置方法まで考える必要があります。
銀行などの貸金庫
貸金庫を利用すれば自宅とは別の場所で保管できますが、利用料がかかります。また、利用時間、収納できる物、災害・盗難時の補償範囲などは契約によって異なります。
貸金庫の中身は銀行預金ではないため、預金保険制度によって金地金や時計そのものが保護される仕組みではありません。利用前に契約内容を確認してください。
貴金属会社などの保管サービス
貴金属取扱会社には購入した金などを預かるサービスもあります。ただし、所有権の扱い、保管方法、手数料、事業者破綻時の扱い、現物受取条件などはサービスごとに異なります。
「自分で保管しなくてよい」という理由だけで選ばず、契約約款を確認しましょう。
金・プラチナの現物購入で確認したい「売値と買値」
現物貴金属では、表示されている相場だけを見るのではなく、購入するときの価格と売却するときの価格の両方を確認することが重要です。
田中貴金属の公式価格でも、金・プラチナとも店頭小売価格と店頭買取価格は別に設定されています。
つまり、金相場がまったく動かなかったとしても、購入直後に売却すれば購入額を下回る可能性があります。また、小型地金では別途手数料が設定される場合もあります。
購入前には、次の項目を確認すると比較しやすくなります。
- 店頭小売価格
- 店頭買取価格
- 購入手数料
- 売却手数料
- 保管手数料
- 現物引出し手数料
- 最低取引単位
- 売却時の本人確認条件
実物資産投資で避けたい5つの思い込み
「実物だから価値がゼロにならない」
現物が残ることと、購入価格に近い金額で売れることは別問題です。建物の老朽化や需要減少、美術品・時計の人気低下などにより市場価値が大きく下がることがあります。
「インフレなら必ず上がる」
インフレ以外にも金利、為替、需給、景気などが価格へ影響するため、短期的な値下がりは十分にあり得ます。
「富裕層が持つものを買えば資産が増える」
富裕層の資産構成は、その人の事業、住宅、相続、収入、負債などの結果でもあります。他人の保有比率をそのまま再現しても同じ結果になるとは限りません。
「不動産なら節税しながら必ず儲かる」
税務上の必要経費や減価償却と、実際の投資利益は別です。税負担が減っても、それ以上に物件価格の下落や空室、修繕費による損失が出れば資産形成として成功したとはいえません。
「金なら預金より安全」
銀行預金と金ではリスクの種類が違います。一定の預金は預金保険制度の対象ですが、金価格は市場で変動します。一方、現物の金には保管・盗難リスクもあります。「安全」という一つの尺度だけで比較することはできません。
実物資産を検討するときの最終チェックリスト
- その資産が何によって価格変動するか理解しているか
- 購入価格だけでなく売却価格・手数料を確認したか
- 希望するときに現金化できるか
- 保管・管理・修繕にいくらかかるか
- 盗難・紛失・災害への対策があるか
- ローンを利用する場合、金利上昇に耐えられるか
- 金融資産・自宅・負債を含む総資産で偏りを確認したか
- 売却時の税金を理解しているか
- 「節税」だけを目的に購入していないか
- 短期間で価格が下がっても保有を続けられるか
まとめ|実物資産は「持てば安心」ではなく、金融資産との違いを理解して活用する
実物資産には、金、プラチナ、不動産、美術品、時計などさまざまな種類があります。一つの言葉でまとめられていますが、それぞれ価格が動く理由、売却のしやすさ、保管コスト、税金は大きく異なります。
金は代表的な実物資産ですが、元本保証ではなく、利息や配当も発生しません。プラチナは自動車・工業用途の需要が大きく、金とは異なる価格変動要因があります。不動産は賃貸収入を得られる可能性がある一方、空室、修繕、災害、借入金利などへの対応が必要です。
また、金地金の売却益は原則として譲渡所得となり、不動産にも不動産所得・譲渡所得などの税務ルールがあります。「実物資産を買えば節税できる」と一括りに考えることはできません。
資産配分にも万人共通の正解はありません。すでに自宅を所有している場合は、それ自体が大きな実物資産です。現金、株式、投資信託、不動産、金などを個別に見るのではなく、負債も含めた家計全体で偏りを確認することが重要です。
実物資産への投資を検討するときは、「将来値上がりしそうか」だけでなく、保有中の費用、売却のしやすさ、価格下落リスク、税金、保管方法まで含めて判断することが大切です。
※本記事は2026年9月10日時点で確認できる法令、税制、統計、各機関の公表情報に基づく一般的な情報提供を目的としており、特定の実物資産・金融商品への投資を推奨するものではありません。価格、税制、手数料、サービス内容等は変更される場合があります。個別の税務判断については税務署または税理士へご確認ください。
<参考サイト>
国税庁 / 金融庁 / 日本銀行 / 財務省 / 金融経済教育推進機構 J-FLEC / 野村総合研究所 / 田中貴金属 / World Gold Council / World Platinum Investment Council





