
資産形成支援の金融教育・研修は外部委託できる?
できます。
特に企業型DCでは、加入者自身が商品を選択して運用するため、従業員が制度と資産運用について理解できるようにすることが重要です。
厚生労働省は、確定拠出年金を実施する事業主等には加入者へ必要かつ適切な投資教育を行う役割があり、加入後も継続的に教育する必要があると説明しています。
自社だけで実施することが難しい場合には、
- 企業型DCの運営管理機関
- 企業年金連合会
- 投資教育を受託する専門会社
などへ外部委託することができます。
外部委託しても、従業員への周知、受講機会の確保、資料配布など会社側が行うべき対応までなくなるわけではありません。
J-FLECなら企業向け金融教育の講師派遣が無料
2026年9月時点では、金融経済教育推進機構J-FLECが企業などを対象に金融経済教育の講師派遣を実施しています。
特徴は、
- 全国の企業・学校・公民館等へ派遣可能
- 対面・オンライン・併用に対応
- 講義時間は45~120分程度
- NISA・iDeCo・家計管理・生活設計・保険・ローン・金融トラブルなどを扱う
- 講師への講義料は無料
- 講師の交通費・宿泊費もJ-FLEC負担
となっています。
企業側が希望する場合は、原則として開催希望日の45日前までに申し込む必要があります。
なお、印刷物を参加者へ配布する際の印刷費や会場準備費などは申込者負担となります。
J-FLECは中立・公正・非営利の公的機関として教育を実施しており、個社の金融商品の販売を目的とする講師派遣は受け付けていません。
金融教育を金融機関へ委託するときの注意点
証券会社、銀行、保険会社なども企業向けセミナーや資産形成支援サービスを提供しています。
金融機関には商品や制度について詳しいという利点がありますが、企業側では、
- 一般的な金融教育なのか
- 特定商品の勧誘を伴うのか
- 従業員に契約を強制しない設計か
- 投資リスクも公平に説明しているか
- 個人情報を誰が管理するか
- 相談内容が会社へ共有されるのか
を確認することが重要です。
資産形成研修は従業員に特定商品を購入させること自体を目的とせず、家計管理やリスク・リターン、分散投資、社会保険など幅広い金融知識を扱う形にすると理解を深めやすくなります。
資産形成支援を導入する手順
制度によって必要手続は異なりますが、企業では次の流れで検討すると整理しやすくなります。
- 目的を決める
老後資金、幅広い資産形成、退職金、金融教育など何を支援したいか明確にします。 - 従業員ニーズを確認する
年齢層、既存制度、投資経験などを匿名アンケート等で確認します。 - 制度を比較する
企業型DC、職場つみたてNISA、iDeCo+、財形、中退共などを比較します。 - 企業負担を試算する
掛金・奨励金・システム費・研修費・事務工数などを計算します。 - 労使手続を確認する
労使同意・労使協定・就業規則・企業型年金規約等の必要性を確認します。 - 金融機関・運営管理機関等を選ぶ
費用、商品、サポート、教育体制を比較します。 - 税務・給与処理を確認する
奨励金や掛金の課税関係を整理します。 - 従業員へ説明する
メリットだけでなくリスク、費用、途中解約条件なども説明します。 - 運用開始後も教育する
定期的な金融教育や制度見直しを行います。
労使協定はどの資産形成制度でも必要?
一律ではありません。
職場つみたてNISAを給与天引きにする場合
賃金は原則として全額を労働者へ直接支払う必要があります。
職場つみたてNISAの積立額を給与から控除する方式を採用する場合には、賃金控除に関する労使協定などの整備が重要です。
実際に日本証券業協会は職場つみたてNISA向けに「賃金控除に関する協定書」の雛形を公表しています。
本人の銀行口座から直接引き落とす方式なら給与控除とは仕組みが異なります。
企業型DCの場合
企業型DCを新たに実施する事業主は、厚生年金被保険者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合には過半数代表者の同意を得て企業型年金規約を作成し、厚生労働大臣の承認を受ける必要があります。
労働協約や就業規則などの提出が必要になる場合もあります。
iDeCo+の場合
前述のとおり、事業主掛金を拠出するには過半数労働組合または過半数代表者との労使合意が必要です。
財形貯蓄の場合
厚生労働省は、財形貯蓄を給与天引きで実施するためには賃金控除に関する労使合意が必要と案内しています。
企業型DCを導入するデメリット・企業側の負担
企業型DCには税制上のメリットがありますが、導入後も一定の運営が必要です。
- 企業型年金規約の作成・変更手続が必要
- 事業主掛金という継続的な費用が発生する
- 制度運営・給与システム等との連携が必要
- 運営管理機関等との事務が発生する
- 従業員への投資教育が必要
- 制度改正への対応が必要
- 退職・転職時の資産移換について従業員へ説明する必要がある
厚生労働省は2026年現在、企業型DCを実施する事業主について、加入者が適切に運用できるよう必要な投資教育を提供する役割を明確にしています。
「DC業者へ契約を任せれば会社側は何もしなくてよい」という制度ではありません。
職場つみたてNISAを導入するデメリット・注意点
- 給与天引き方式では給与事務が増える場合がある
- 奨励金を出す場合は継続的な会社負担となる
- 奨励金は従業員側で給与所得になる
- 投資商品なので元本割れする可能性がある
- 利用する従業員と利用しない従業員の公平感を考える必要がある
- 金融機関とのデータ連携・個人情報管理が必要になる場合がある
なお、職場つみたてNISAで従業員が投資した商品が下落しても、会社が損失を補填する制度ではありません。
従業員本人が商品を選択し、投資リスクを負います。
「奨励金を出せば利用率が必ず上がる」とは限らない
奨励金は制度参加のきっかけになる可能性がありますが、全国共通の利用率向上効果が保証されているわけではありません。
従業員が制度を利用しない理由が「投資が怖い」「NISAを理解できない」「生活費に余裕がない」というものであれば、奨励金だけでなく金融教育や家計管理支援も重要になります。
資産形成支援制度と金融教育をセットで設計することで、従業員が自分で判断するための環境を整えられます。
資産形成支援協会とは?公的機関ではない
指定キーワードにある一般社団法人 資産形成支援協会は実在する団体です。
公式サイトによると、2018年に設立され、長期的・安定的な資産形成に関する情報提供や啓発、セミナー・研修、金融アドバイザー等の人材育成・支援などを行っています。
保険代理店やIFAなどに対する投資信託提案支援、資格取得支援、研修なども案内しています。
ただし、金融庁やJ-FLECのような国の行政機関・公的機関ではありません。
名称に「協会」が含まれていても、その団体の法的位置付けやサービス内容は公式情報で確認することが重要です。
東海東京証券の資産形成支援グループとは?
東海東京証券には、公式サイト上で「資産形成支援グループ」という相談窓口が案内されています。
2026年9月10日時点の公式ページでは、個人の夢やライフプランに沿ったポートフォリオについて専門担当者へ相談できるサービスとして紹介され、土日の相談にも対応するとしています。
これは東海東京証券が提供する資産形成相談サービスであり、国の「資産形成支援制度」や公的な補助金制度の名称ではありません。
また、金融商品への投資では価格変動による損失等が生じる可能性があります。相談を利用する場合も、商品の手数料・リスク・契約条件を確認したうえで本人が判断する必要があります。
資産形成支援制度を導入するときの最終チェックリスト
- 老後資金と自由に使える資産形成のどちらを支援するか決めたか
- 企業型DC・職場つみたてNISA・iDeCo+・財形を比較したか
- 奨励金や事業主掛金の年間予算を試算したか
- 職場つみたてNISA奨励金が給与所得になることを確認したか
- 企業型DCの事業主掛金との税制差を理解したか
- 給与天引きに必要な労使協定を確認したか
- 企業型DC・iDeCo+に必要な労使同意を確認したか
- 投資教育の実施方法を決めたか
- J-FLECの無料講師派遣を検討したか
- 元本割れリスクを従業員へ説明する仕組みがあるか
- 制度への参加を事実上強制する設計になっていないか
- 個人情報の管理方法を確認したか
- 退職・転職時の取扱いを説明できるか
- 毎年制度を見直す担当部署を決めたか
資産形成支援についてよくある誤解
「職場つみたてNISAには会社の奨励金が必須」
必須ではありません。奨励金を設けるか、金額をいくらにするかは企業が決めます。
「職場つみたてNISAの奨励金はNISAだから非課税」
誤りです。国税庁は会社が従業員へ給付する奨励金を給与等として扱っています。NISAで非課税になるのは制度の要件を満たす対象商品の運用益等です。
「企業型DCと職場つみたてNISAは同じ制度」
違います。企業型DCは老後資金を形成する年金制度で、原則60歳まで資産を引き出せません。NISAでは保有商品を売却して資金を払い出すことができます。
「会社が資産形成制度を導入すると国から補助金がもらえる」
すべての制度に共通する補助金はありません。中退共には一定の掛金助成がありますが、職場つみたてNISAやiDeCo+は同じ助成制度ではありません。
「金融教育は会社がすべて自前で行わなければならない」
企業型DCの投資教育は外部へ委託できます。またJ-FLECでは、企業向けに無料の金融経済教育講師派遣を実施しています。
「給与天引きなら従業員の申込みだけでよい」
給与から積立額等を控除する制度では、労働基準法上の賃金全額払いの原則との関係から賃金控除に関する労使協定等を確認する必要があります。
まとめ|資産形成支援は「制度+お金+教育」の3つで設計する
企業ができる資産形成支援には、職場つみたてNISA、企業型DC、iDeCo+、財形貯蓄、中退共、従業員持株会、金融経済教育など多くの選択肢があります。
職場つみたてNISAは、従業員本人のNISAを職場から支援する福利厚生制度です。企業は任意で奨励金を設定できますが、2026年9月時点で全国一律の奨励金相場を示す最新公的統計はありません。また、企業から支給される奨励金は従業員側では給与所得に該当します。
企業型DCは事業主が老後資金として掛金を拠出する仕組みで、事業主掛金は拠出時に従業員へ給与課税されず、会社側では一定の要件のもとで損金等に算入されます。2026年12月1日には拠出限度額の引き上げも予定されています。
企業年金を導入していない従業員300人以下の中小企業であればiDeCo+も候補です。また、中退共では一定条件を満たす新規加入事業主について、国が掛金月額の2分の1、従業員1人につき月5,000円を上限として1年間助成する制度があります。
金融教育についてはJ-FLECが企業へ無料で講師を派遣しています。講義料に加えて講師の交通費・宿泊費もJ-FLECが負担するため、研修予算を抑えながら中立的な金融経済教育を導入する選択肢になります。
一方、制度ごとに必要な労使手続は異なります。職場つみたてNISAや財形を給与天引きにする場合は賃金控除に関する労使協定、企業型DCでは企業型年金規約と過半数労働組合等の同意、iDeCo+でも所定の労使合意が重要です。
企業の資産形成支援は、単に投資制度を導入すれば完成するものではありません。「従業員が使いやすい制度」「会社が継続できる費用設計」「自分で判断できる金融教育」の3つを組み合わせ、税務・労務・法令まで確認して導入することが重要です。
※本記事は2026年9月10日時点で確認できる金融・年金・税制・労働関係制度および各機関の公表情報を基にした一般的な情報提供を目的としています。特定の金融商品、証券会社、福利厚生サービスの契約や投資を推奨するものではありません。NISA・企業型DC等で投資信託などを利用する場合は元本割れの可能性があります。企業型DC・iDeCo等では2026年12月1日に制度改正が予定されているため、導入時には最新の法令・運営管理機関の案内をご確認ください。具体的な税務は税理士・税務署、労使協定や就業規則等については社会保険労務士・労働局等へご確認ください。
<参考サイト>
金融庁 / 厚生労働省 / 国税庁 / 日本証券業協会 / 金融経済教育推進機構 J-FLEC / 国民年金基金連合会 iDeCo公式サイト / 中小企業退職金共済事業本部 / 中小企業庁 / 一般社団法人 資産形成支援協会 / 東海東京証券




